我々の住む世界には、ミクロなスケールからマクロなスケールに至るまで普遍的に存在する数理構造があると考えられる。実際、極低温の物質中で見られる物理現象は宇宙初期にも生じたと考えられている。逆に、宇宙における突発天体などに伴う現象は実験室においても再現可能である。このような普遍性の探究に大きな威力を発揮するのが「トポロジー」という学問である。我々は、固体物理系と宇宙における系とをトポロジーという観点から同等に見ることにより、宇宙における様々な謎を解明しようと考えている。

初期宇宙におけるトポロジカル欠陥の秩序化過程

宇宙初期ではエネルギースケールが高く、全ての力(重力、強い力、弱い力、電磁力)が統一されていた。その後、急激な宇宙膨張とともにエネルギースケールが下がるにつれて様々な相転移現象が起き、トポロジカル欠陥が生じたと考えられている。しかし、我々が観測できる範囲は「晴れ上がり」と呼ばれる宇宙背景輻射が生成された時期までであり、トポロジカル欠陥が生じたと考えられている初期宇宙は観測できない状況にある。この初期宇宙の相転移過程は、固体物理系での相転移現象と対比させることができる。我々は、非平衡条件下において超伝導体中にできるトポロジカル欠陥の秩序化過程を測定することで、実験室から初期宇宙の未解決問題を解決しようとしている。


 初期宇宙における量子揺らぎと階層構造

銀河や銀河団などの構造は、宇宙初期に生成された密度ゆらぎが重力により成長したものである。この密度ゆらぎはインフレーション期の場の量子揺らぎが古典化したものと考えられているが、その過程の詳細は未解明なままである。我々は宇宙における量子ゆらぎを固体物理系における超伝導の量子ゆらぎと対比させ実験することで、この問題の解決の糸口を探っている。さらに複雑性(階層構造)が及ぼす影響ついても実験室レベルで調べている。


 流体渦のトポロジカル変化

超新星爆発やガンマ線バーストのようなバースト現象は非平衡条件下にあり、非常に複雑な流体の運動(渦)を伴う。しかしこのような現象もトポロジーという視点で見た場合、統一的に理解できる可能性がある。我々は金属表面に高強度のレーザー・パルスを照射することで、宇宙で起こりうる複雑な現象を再現することを試みている。そして、トポロジーの視点から宇宙で起こっている渦流に伴う現象を解明しようとしている。


 トポロジカル重力理論

WMAP衛星による最新の宇宙背景放射の観測により宇宙論パラメータがほぼ決定された。しかし、宇宙の9割以上もの構成成分が未だ知らない暗黒成分で成り立っている。このような「暗黒物質・暗黒エネルギー問題」は、重力理論の拡張により解決される可能性がある。我々は、チャーン・サイモン理論と呼ばれ、トポロジーと密接に関係付けられる理論形式に基づくアインシュタイン重力理論の拡張に焦点を当て、宇宙論・宇宙物理学的な帰結を探ることで、上記の問題の解決を目指している。