トポロジカル低次元物性

低次元導体とは

銅などの一般的な金属はどの方向にも同じように 電気を流す。これに対し、2次元的な面内あるいは1次元的な線状でしか電子が動けない物質群がある。これらを低次元導体と総称する。低次元導体は、 電荷やスピン密度が空間的に振動した電荷密度波(CDW)やスピン密度波状態(SDW)を示す。これらは超伝導と同様なマクロなコヒーレンスをともない超伝導とも しばしば競合・共存することから、次元性を変えることでCDW・SDWや超伝導といった多彩なコヒーレント状態を制御できる。このように低次元導体は様々な 量子干渉効果の恰好の舞台となる。この代表的な物質群がMX2, MX3系や有機導体である。
我々の研究室では、次元性の制御による基底状態の探索に加え、ナノ加工やトポロジカル結晶を用いた量子干渉効果の観測を目指している。

MX2, MX3

遷移金属(M=Nb、Ta、Ti)とカルコゲン (X=S、Se、Te)をある条件下で化学反応させるとmol比1:2の遷移金属ダイカルコゲナイド(通称MX2)、mol比1:3の遷移金属トリカルコゲナイド (通称MX3)が得られる。これらの結晶はMとXの組み合わせや、微妙な配置の違いによって実に多彩な基底状態を示すユニークな物質群である。
MX3は遷移金属原子(青球)が3つのカルコゲン原子(赤球)と交互に積み重なった構造を取る(Fig. 1)。この構造を反映して結晶成長や電気伝導が 他の方向と比べて圧倒的に成長が早い、電気を流し易いという強い1次元性を示す。


Fig. 1. MX3結晶構造、b軸方向にM-X-M-X・・・と連なる






一方MX2は3角格子状に配列した遷移金属の上下を、同じく3角格子状に配列した
カルコゲナンが挟み込むサンドイッチ構造をしている(Fig. 2)。この物質はグラファイトのように層状構造をしており、強い2次元性を示す。


Fig. 2. MX2結晶構造、ab面で三角格子状のMをXが挟み込み、c軸方向に積み重なっている

我々の研究室ではMX3結晶の両端が繋がって閉じた、端が存在しないトポロジカル結晶の合成に世界で初めて成功した(Fig. 3)。 また、MX2結晶がナノスケールの筒状になったMX2ナノチューブも発見した(Fig. 4)。両端が閉じる事で「端が存在しない」 という世界の住人(電子)は、通常の「端が存在する」世界の住人と振る舞いは違うのか?さらに「表裏がない」メビウス界ではどうなるのか? そのような観点の元、我々は研究を行っている。
その研究のひとつとして、量子干渉効果であるアハラノフ-ボーム(AB)効果の観測を目指している。


Fig. 3. 異なるトポロジーを持つトポロジカル結晶群、上からリング・8の字・メビウス


Fig. 4. MX2ナノチューブのSEM・TED像と結晶構造、C60(緑)をテンプレートとしてMX2 チューブが量産される

有機導体

有機ドナー分子2個に対し1価の陰イオンが1個という組成を持つのが有機導体と呼ばれる物質群である。 代表的なドナー分子にはTMTSFやBEDT-TTFなどがあるが、この伝導を担うのは分子上に広がったπ電子である。 一見複雑な組成を持つが、ドナー分子の種類にはほとんど寄らず、その配列つまりπ電子の重なり方だけで電気的性質が決まるといっても過言ではない。 有機導体は単体元素の数100倍にも及ぶ大きな単位格子を反映して、キャリア密度が希薄であるという特徴を持つ。このため伝導電子間のクーロン反発力が遮蔽されにくくなり、 オンサイトクーロン相互作用を媒介とするSDWが起きやすくなる。 また、この系の超伝導は、格子振動を媒介にした従来のBCSタイプとは異なり、強いオンサイトクーロン力を背景にした新しいタイプの 異方的超伝導であることが明らかになりつつある。


有機超伝導体(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの結晶構造