「物性物理の最前線」若手研究会アブストラクト


1999年1月21日(木)ー23日(土)


北大(北海道札幌市)



研究会プログラム

北海道大学大学院工学研究科 明楽浩史


「量子ドットのトンネル伝導に現れる相関とコヒーレンス」


概要 クーロン反発が顕著な量子ドットを通してのトンネル現象において、 いくつかの多体効果がすでに実験で観測され、また理論的に予言されている。 基本的な多体効果として、トンネル過程の相関とスピン反転が挙げられるが、 これらはまだ実験的に観測することに成功していない。本講演では、 これらの多体効果を観測する難しさについて述べ、それを克服するひとつの方法を提 案する。 この方法は、2次元面に平行な磁場を用いるのが特徴で、 電流は磁場のユニバーサルな関数として表される。 このユニバーサルな関数には、上述の多体効果が簡潔な形で表現されている。


矢久保 考介
北大・量子物理工学専攻
「不均一磁場中の2次元電子状態」


相互作用のない2次元電子系に不均一な磁場(電子面に垂直)を 印加した系は、分数量子ホール系や高温超伝導のゲージ理論と 密接に関係しているため、最近高い関心を集めている。量子状態が ゲージ場の揺らぎによってどのような影響を受けるかを理解する上で、 この系の電子状態を解明することは極めて基本的な問題であるが、 未だ金属−絶縁体転移の有無すら明らかにされていない。この問題に 関するこれまでの研究を概観し、最近の我々の仕事を紹介する。


岡本徹
学習院大理学部

Title 「2次元系における金属絶縁体転移と磁場効果」


Abstract 「4人組のスケーリング理論以来、2次元系における金属絶縁体転移は存在しないと 考えられていたが、近年、Si-MOSFETなどの系で金属絶縁体転移が観測され、大きく 注目されている.金属絶縁体転移が観測される系に共通な特徴として電子間相互作用 が強いことが挙げられているが、金属相における電子状態や温度低下に伴う劇的な抵 抗減少のメカニズムは解明されていない.当日はこれまで行われてきた研究を実験を 中心として紹介するとともに、我々のグループで行っている、磁気抵抗効果などの実 験結果を報告する.」



丹田 聡、川本温子、塩原正人、岡島吉俊、山谷和彦
北大・院・量子物理工学
RING CDW

擬一次元導体NbSe_3のring状結晶を閉管昇華法にて作成することができた。 ring状になる結晶は他の物質では例がなく、結晶成長そのものに 興味がもたれる。このring-NbSe_3は、単相であり、従来のリボン状結晶と同じく CDW転移を起こすことを電気的測定により確認した。また、転移点以下で CDWの並進運動に基づく直流非線形伝導を確認した。 Ring結晶成長の生成メカニズムを中心に報告します。



浦上直人(金沢大)、今井正幸(お茶大)、 佐野洋(食総研)、◯高須昌子(金沢大)
タバコモザイクウイルスと多糖類のシミュレーション


タバコモザイクウイルスの感染力は、多糖類を加えると低下する ことが佐野氏らの実験によりわかっている。 また、多糖類が加わると、タバコモザイクウイルスは ネマッティック相になることが、顕微鏡写真でわかる。 我々はこの現象について、簡単なモデルを作成し、 シミュレーションを行なった。 実験結果を定性的に再現し、さらに、相分離はしているが 等方的な相があることがわかった。



芳賀 永、佐々木 茂雄、川端 和重、伊藤 悦朗、三本木 孝
北大・院・理  
『細胞の形態変化と運動に伴う力学特性のAFM観察』


 生体細胞はその機能に従って独自の形態と運動性を示す。例えば、神経 細胞は樹状突起や軸索を伸ばすことで他の神経細胞とネットワークを形成 する。また上皮細胞は、運動性には乏しいものの、隣接した細胞と強力に 結合することで上皮膜を形成することができる。癌細胞などは、正常細胞 にはみられない極めて特異な運動性を示す。しかし細胞が固有の形態を形 成し運動性を示すメカニズムは未だ明らかではない。  細胞の形態変化や運動は、分子生物学のミクロな立場からこれまで主に 研究がすすめられてきた。しかしながら形態変化や運動は、細胞骨格・生 体膜など様々な要因のマクロな協調現象による結果であり、分子レベルの ミクロな解析だけでは解明がなかなか困難である。形態変化や運動を多自 由度系のマクロな力学的物理現象としてとらえ、『非平衡エネルギー散逸』 『自己組織化現象』などといった概念による新しいアプローチが必要であ ろう。  本研究の目的は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて細胞の形態変化や運動 をリアルタイムで観察し、その力学量(弾性率・粘性係数)の空間分布・ 時間変化から細胞の形態変化や運動のマクロな性質を理解することである。  これまでに我々は、マウス繊維芽細胞(NIH3T3)を試料に用い、培養 環境下における生きた細胞の粘弾性測定を行ってきた。本講演では、細 胞の形態と力学量の関係について報告する。



Manfred Sigrist
京大基研


Sr2RuO4: A textbook case of a spin-triplet superconductor

The order parameter in unconventional superconductors can appear in various forms and the first task for each new system of this kind is to determine its particular symmetry. For Sr2RuO4experiment and theory seem to go very smoothly together identify a one clear strong candidate for pairing state: $ {\bf d} ({\bf }) =
\hat{{\bf z}} ( k_x \pm i k_y ) $. This $ p_x \pm i p_y $-wave (spin-triplet) state is consistent with all presently available experiments and has various unusual properties. In this talk we will discuss various properties of this time reversal symmetry breaking state and analyze the problem of a microscopic stabilizing mechanism based on spin fluctuation properties. We will show how from various viewpoints Sr2RuO4 provides a textbook case of an unconventional superconductor.



小田 研
北大・理学部・物理 
STM/STSで見た銅酸化物の超伝導と擬ギャップ


銅酸化物高温超伝導体に関するホットな話題の1つに、低キャリア(ホール)濃度領 域の高温で発達する擬ギャップ(スピン・ギャップ)があります。この擬ギャップは pairing機構と密接に関係すると考えられており、現在、活発な研究がなされている 最中です。最近、STM/STSによるBi系及びLa系銅酸化物の超伝導ギャップに関する研 究から、擬ギャップと超伝導との関連性について興味深い結果が得られましたので、 これについてお話しします。主な内容は以下の通りです。 1)低ホール濃度領域では、ホール濃度の低下と共にTcは大きく減少するが、低温( T<<Tc)での超伝導ギャップは有効反強磁性相互作用の強さと相関して大きくなるこ とが分かりました。このことは、高温超伝導のpairing機構に磁気的相互作用が深く 関わっていることを示す1つの有力な証拠と考えられます。 2)超伝導ギャップの大きさ2Egを擬ギャップが開き始める温度T*で規格化すると、 興味深いことに、2Eg/kT*はホール濃度に依らず平均場理論で期待される値にほぼ一 致します。これは、T*(100~200K程度)が平均場のTcやTRVBに対応するもので、T*か ら何らかの対形成が起こっていることを意味する結果と言えます。 3)Tcが超伝導ギャップの大きさ2Egをホール濃度pでリノマライズしたもの(Tc~2pE g)で与えられるという結果も得らています。 以上の結果を基に、擬ギャップ状態から超伝導状態への転移のメカニズムについて議 論します。



紺谷 浩
東大物性研究所

Hall Effect and Resistivity in High-$T_{\rm c}$ Superconductors: The Conserving Approximation

The Hall coefficient, $R_{\rm H}$, in high-$T_{\rm c}$ cuprates in the normal state shows the striking non-Fermi liquid behavior: $R_{\rm H}$ follows a Curie-Weiss type temperature dependence, and $\vert R_{\rm H}\vert \gg 1/\vert n{e}\vert$at low temperatures in the under-doped compounds. Moreover, $R_{\rm H}$ is positive for hole-doped compounds and negative for electron-doped ones, although each of them has a similar hole-like Fermi surface. In this paper, we construct a conserving approximation for the conductivity and the Hall conductivity including vertex corrections for the current, which are neglected within the conventional Boltzmann transport theory. We study the total current ${\vec J}_k$ including the vertex corrections in a nearly antiferromagnetic (AF) Fermi liquid, and find out that ${\vec J}_k$ takes an enhanced value and is no more perpendicular to the Fermi surface. This fact gives rise to the non-Fermi liquid behaviors of $R_{\rm H}$in high-T$_{\rm c}$ cuprates. Both the temperature and the (electron, hole) doping dependences of $R_{\rm H}$ in high-$T_{\rm c}$ cuprates are reproduced well by numerical calculations based on the fluctuation-exchange (FLEX) approximation, applied to the single-band Hubbard model with a hole-like Fermi surface. The present theory also explains the singular temperature dependence of $R_{\rm H}$ in other nearly AF metals, e.g., V2O3, $\kappa$-BEDT-TTF organic superconductors, and heavy fermion systems close to the AF phase boundary.


久我 隆弘
 東京大学大学院総合文化研究科(教養学部) 
題目 原子気体のボース・アインシュタイン凝縮(BEC)


概要 相互作用の弱い極限における量子凝縮現象が最近観測されるようになった。  ここでは、どのようにしてBECを実現するかという、  実験的な話が中心になる予定である。  また、低温関係の専門家と、将来の方向性について議論したい。


白濱圭也
東大物性研
「ヘリウム3表面上のウィグナー結晶」


液体ヘリウムの自由表面には、100mK程度の極低温で2次元電子の結晶状態(ウィグナー 結晶)をつくることができる。このウィグナー結晶の水平方向のダイナミクス(電気伝 導)は、結晶電子とヘリウム表面との相互作用により、液体ヘリウム内部や表面の熱的 励起(リプロンや準粒子)の影響を強く受ける。私たちは結晶の伝導のメカニズムを明 らかにするために、全く物性の異なる液体ヘリウム4とヘリウム3の両方に対して表面 上ウィグナー結晶の伝導度の測定を行ってきた。2年前の研究会でもお話ししたが、今 回はそれ以降の進展として以下の2つの話題をとりあげる。 (1)超流動ヘリウム3-A,B相表面上ウィグナー結晶 超流動ヘリウム3における代表的な2つの相、A相とB相の表面での結晶の伝導度の測定 を行ったので、その結果を超流動ヘリウム3の簡単な解説を交えてお話ししたい。 (2)ウィグナー結晶の非線形伝導現象 ヘリウム3表面上で観測されるウィグナー結晶の非線形伝導現象について、時間があれ ば触れたい。


吉岡英夫
名古屋大理
Title Electronic Correlation of Metalic Carbon Nanotubes


Abstruct Single wall carbon nanotubes (SWNTs) with diameters of a few atomic distances and lengths of several micrometers can be considered as the ultimate miniaturization of metallic wires. I derive the Hamiltonian for low energy of SWNTs with the metalic band structure with taking account of the microsopic lattice structure and long range Coulomb interaction. The resulting Hamiltonian is shown to be universal. By using the Hamiltonian, the ground states, the excitation from it, adn the transport properties are discussed.


北 孝文
北海道大学理学研究科物理学専攻
タイトル: 「学部生に超伝導理論は理解可能か?」


要旨: 超伝導理論の通常の教え方には、「粒子数の非保存」、 「運動量空間でのペアリング」、「エネルギーカットオフ」 など、初学者には受け入れ難い概念が含まれており、 学部生にはその理解が困難なように見える。 また高温超伝導発見直後から新たな超伝導機構が数多く 提案されては消えていったことが示すように、 「なぜ超伝導性が生じるのか?」については、研究者の間でも 一致した理解が得られていないように思われる。 上記タイトルの問いかけを通して超伝導理論を見直し、 理論全体をすっきりとした基礎の上に、かつ学部生にも 理解可能なように再構成することを試みる。 必要とされる知識は、物理としては「スピンと統計」と 「ボーズ凝縮」、数学は「第二量子化」と「線形代数」のみ である。


太田仁  
神戸大理
題目 スピンラダー系Cu2(C5H12N2)2Cl4のサブミリ波ESR


要旨  Cu2(C5H12N2)2Cl4は新しいS=1/2スピンラダー系として最近フランスのグループを 中心に精力的に研究されている。この系は低温でスピン一重項状態をとり,磁化測定 からHc1=7.5Tで磁化がではじめ,Hs=13.2Tで飽和することがわかっている。我々はこ の物質の単結晶試料のサブミリ波ESRを1.8Kで試みたところHc1およびHs以外にHc2=10 ...1TでESRの異常を見い出した。これまでのスピンラダー系やボンド交替系の磁化過程 の理論計算の結果と比較して我々が見い出したHc2における異常の起源について議論 したい。



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