レポート文章作法


レポートを書く前に

実験レポートといえどもまとまったひとつの文章であり, 読者(多くの場合教員であるが)に対して何かを伝えるために 書くものである. したがって, 伝えるべき内容を明確にすることが 何よりも大事なことであり, レポートを執筆にとりかかる前に これを自分の中できちんと整理しなければならない.

ノートに, レポートのアウトラインを作成するのがもっとも効果的である. まずは目的, 原理・方法, 結果, 考察について, 書くべき内容を箇条書きにする. 特に重要なのは, 考察であり, 実験結果からわかること, 文献の記述 を整理し, この実験を通じて何を主張しなければならないかを明確にする.

次に, その主張に対して論理がつながっているかを確認する. 結論に至るまでにいくつかのステップを踏んで論証していく場合には, 必要な論考の段階を考えて, パラグラフを構成する.

パラグラフ

ここで, パラグラフというのはひとつの主張をもった文章の集まりをいい, ひとつのパラグラフには必ずひとつの主張が伴う. 複数の主張を単一の パラグラフで述べることはルール違反である.

トピックセンテンス

パラグラフの最初の文章を トピックセンテンスといい, そのパラグラフの主張を簡潔に述べる. トピックセンテンスに続く文によって, その主張を裏付けるための 論考を展開する. パラグラフの最後には, 主張のまとめと次のパラグラフへの 展開を説明する文章がくる.

パラグラフという概念は日本語の通常の作文には存在しないが, 理系の学術 論文を読み書きする際に必ず意識しなければならないものである. 実験レポートの 執筆を通じてこれに慣れておくことを強く推奨する. 将来, 卒業論文や 学術論文の執筆, あるいは職業上の文章作成において力強い武器になる.

目的

さて, 全体のパラグラフが構成できたら, いよいよレポートの執筆に入る. 最初の節は「目的」に関する内容である. ここでは, 執筆者が実験を 通じて得た知見(発見や驚き)を簡潔に記述する. パラグラフを2つ用い, 最初のパラグラフで実験をする前の素朴な理解について説明し, 次のパラグラフで 実験によって何がわかったかを書くのが効果的である.

一方, 実験結果について十分な考察をしていないと, この節に何を書いていいか わからないということになる. 単に「テキストに書いてあるから」実験を 行ったという状況を脱することがもっとも大切である.

原理・方法

この節には, 実験結果を得るのに必要な原理, 実験方法を記述する. 実験テキストの記述を丸写しするのは厳禁である. 本当に必要な要素は 何かを考え, 自分のことばで簡潔に書く. 特に基礎実験においては 実験によって求める物理量の意味についての記述があるほうが望ましい.

実験において, 求めたい物理量がそのままの形で出てくることはまれで, 多くの場合適当なモデルにあてはめて所望の物理量を実験結果から抽出する ことになる. このような場合には, 測定によって得られた量と, そこから どのようにして目的の物理量が得られるかを簡潔に記述する.

また, 物性測定をともなう実験においては試料についての記述が必要である. 与えられたものであれば物質名・化学式・純度について書かなくてはならないし, 実験者が合成したものであれば, その手法についての説明も必要になる.

結果

実験によって得られた結果を記述する. 前にも述べたように, 測定に よって得られた量がそのまま目的の物理量であるとは限らない. この実験で何を求めようとしているのかを見失わないように注意する.

実験結果を表すにはグラフや表を用いることが多い. 図表類は図番号・表番号を 連番で打ち, それぞれに簡単な説明(キャプション)を書いて レポートの最後にまとめて綴じる. 本文の中では「図1」「表2」というように 参照する. 同じ結果を表すためにグラフと表の両方を記述する必要はない.

また, グラフに実験によって得られた点ではない曲線を記入することは, 実験結果がその曲線によって表される関数関係があることを主張することに なる. 実験によっては, むしろこの曲線(回帰曲線)こそが求めたい物理量を あらわすことになる.

数式は文章の一部として扱う. 数式だけが箇条書きのように文章から浮いて しまうことのないように注意する. 数式に使われる文字はすべて定義しなけ ればならない. ehなどの基本定数を表すのによく使われる 文字も, 煩雑になるが必ず定義すること.

測定によって得られた物理量を記述するときには, 有効桁数・誤差の範囲・単位 に注意する. 不必要に多く桁数を書くことは, 著者が誤差についての理解がないこと を言明しているのに等しい.

考察

先に述べたように, レポートの中で考察がもっとも重要な節である. ここでは実験結果を通じて, 何が新しい知見として得られたかを論考する.

実験結果は事実であり, これに自分の意見を加え, それを裏付けるために 必要な文献を参照する. 文献の記述をそのまま書き写すことを「引用」といい, 自分のことばで内容を書くことを「要約」という. いずれにしても 参考にした文献の題名・著者・出版社・発行年を明記しなければならない決まりに なっている. また引用の場合には, 文章全体に占める割合が多くなっては ならない.

実験事実と文献の記述が異なる場合には, まず実験事実を優先し, その相違について 論じる. このとき, 安易に実験方法の問題や試料の問題, 誤差の問題と して片付けないことが重要である.

インターネットに利用に関する注意

近年ではインターネットを通じて簡便に情報が得られる ようになった. 特に学術論文について, 主要な論文誌はかなり古いものまで データベース化が進んでおり, 検索や参照が以前に比べると格段に少ない労力で できるようになった. 大学図書館は論文のダウンロードに関して契約を 結んでいる場合には原著論文がまさに研究室に居ながらにして手に入る. 学生実験の範囲では原著論文を参照するケースはあまりないだろうが, 卒業論文の執筆のときには必ずやその恩沢に浴すことになる.

一方で, googleなどの一般検索サービスを用いて得られる情報は玉石混交である. 原則としてインターネット上の情報はそのまま参考文献としては 使うことができない. これは, 出所不明の転記・孫引きが横行しているから であり, また, 印刷物とは異なり, 情報を簡単に書き換えたり消去したり することができるからである. 面倒であっても文献は必ず原典をあたる癖をつけることが 重要である.

書式

提出用のレポートはA4版のレポート用紙に横書きで書く. 筆記用具としては 万年筆かボールペンを用いる. 鉛筆やシャープペンシルで書いたものは提出 物としては不適切である.

レポートの表紙には, 実験テーマ名・実験者・共同実験者・実験日時だけを書き, 本文は 次のページから始める. 図表は本文から独立させて最後にまとめて綴じる.

ワープロソフトを用いてレポートを書くときには数式やべき乗, 化学式などの 上付き・下付き文字をきちんと書くこと. また, 漢字の誤変換に注意し, 必要以上に 難しい漢字と使わないように気をつける.

最後に

レポートを提出する前にもう一度読み返して誤字・脱字がないのを 確認するのはもちろん, 論理の飛躍がないか, 数値の写し間違いがないかを チェックすることは大事である.

レポートといえども読者に対して何か主張をするということを忘れないでほしい. 実験を通じて体感したことは, 文献から得た知識とは違った生の理解に通じる. そして, それは一生懸命実験に没頭した自分に対するご褒美でもあるのである.


2009.5.14 記

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